牧之瀬雅明・禅語と季節のブログ

季節の花々と人生を重ねて

11月の花の紹介  ノギク

(10月の花より)
 ノギク(菊)

 苦労の影を見せない苦労人。太陽の申し子とも。

万葉集には160種類の植物名が登場しますが、キクを詠んだ句は一首も
ありません。
奈良時代の末頃に中国から伝来したといわれるキクですが、野や山で可憐に
咲く野菊は大昔から自生していました。九州の薩摩菊、四国の
塩菊、西日本の野路菊、竜脳菊、東日本の浜菊、北海道のピオレ菊など日本
には20種類もあると言われています。


兵庫県では県花に野路菊がなっています。
美しく最も大きいと言われる野路菊は秋に白や淡黄色の花が開花を迎
えます。野菊は見る人に愛でて讃えてもらおうなどとは念頭に置かず、自ら
の命を精一杯生きる、それが野菊なのです。


仙人は菊の花を食べて長寿を保つ

世界で最初に菊の栽培を初めたのは中国です。周の時代、2000年以上前
のことです。仙人は菊の花を食べて長寿を保つと信じられ、長寿の薬として
菊の栽培が始まりました。出来るだけ大輪に、また花の数を多くとの人の手
が加えられて人工栽培による園芸種が誕生しました。この園芸種が日本に伝
わって平安時代に貴族が菊の花を浮かべた酒を飲み長寿を願ったのでした。


 菊が本当に仙人の食べものだったかはともかく、菊の性状を見るとそう信
じた理由は納得できます。第一は生命力の強さ。ほとんどの花が初冬に霜枯
れしますが、菊だけは凛乎として霜をしのいで咲き続けます。そして花が散
った直後に根から新芽が現れ、その萌えた芽は長い冬を積雪の下で耐え抜き
、春3月に一気に緑の葉を展開させるのです。


 私たちは太陽の絵を書けと言われた時に、黄金色の正円の外周に光線を配
します。キクの姿形はまさしくその絵の太陽そのもの。細い花弁が外周の光
線と同じです。キクは地上における日精・太陽の精ともいえ、古代の中国で
なくとも、キクは我が生きる姿でいてほしいと願うのは当然でしょう。誰し
もが長寿の夢を託したくなります。


 そのキクの本然の姿が野生種です。いかに花が華美でも、人工は自然には
及びません。野菊は厳しい環境にも強い生命力で生き抜きます。可憐な姿で
ありながら、風雨をしのいだ苦労の影を見せない健気さに、私たちは人生と
重ねて感銘を感じるのでしょう。