牧之瀬雅明・禅語と季節のブログ

季節の花々と人生を重ねて

秋の花 リンドウ

(10月の花より) リンドウ(竜胆)


 秋の最後を飾る、内に秘めたる生命力を見よ

秋の山や丘陵地で美しい青紫色の花がひときわ目を引きます。リンドウは
秋の七草に入っていないものの秋の野草の中で最も色も形も趣に富んだ花で
す。青紫色のほかにも桃や白色もあり、筒状をした鐘形の花が特徴です。先
端が五裂弁にわかれ、裂弁と裂弁の間に副片があります。標高の高い高原で
は11月上旬まで花が咲き、秋の最後を飾ります。


漢名として「竜胆」はリュウタンと呼びます

日の当たる昼間だけ咲き、夜や天候の悪い日には弁を閉じる特異な性質を
持っています。漢名として「竜胆」という名を充てます。根が竜の胆のよう
に極めて苦いことから、この名が付きました。中国では生薬として栽培され
、健胃剤やリウマチ、膀胱炎、歯肉炎などの消炎剤として用いられています
。多年草で5年以上の歳月を経た根が生薬となります。平安初期の薬物辞典「
本草和名」にはエヤミグサ、一名ニガナがあげられ、エヤミグサは疫病草の
意味になります。


 ササリンドウとの呼び名もあります。葉の形が竹の葉に似ていることか
ら名付けられました。源氏の紋所はこの花と葉を匠に図案化したものです。
熊本県の郷土の花に指定されているのは「ツクシリンドウ」北海道など北国
に多い「エゾリンドウ」などの仲間もあります。


リンドウは大変丈夫な植物で、湿気があって日当たりの良い場所の土地な
ら、実生、サシ芽、株分けのいづれの方法でも容易に育ち2年目には花を咲かせ
ます。可憐な花ですが生命力は誠に強いのです。


枕草子、古今集、源氏物語といった我が国の古い文学作品に多く取り上げ
られ、古の昔より親しまれてきました。「可憐で凛として咲きながらも、ウ
チに秘めた強い生命力」。リンドウの存在が多くの人を魅了しました。

11月の花の紹介  ノギク

(10月の花より)
 ノギク(菊)

 苦労の影を見せない苦労人。太陽の申し子とも。

万葉集には160種類の植物名が登場しますが、キクを詠んだ句は一首も
ありません。
奈良時代の末頃に中国から伝来したといわれるキクですが、野や山で可憐に
咲く野菊は大昔から自生していました。九州の薩摩菊、四国の
塩菊、西日本の野路菊、竜脳菊、東日本の浜菊、北海道のピオレ菊など日本
には20種類もあると言われています。


兵庫県では県花に野路菊がなっています。
美しく最も大きいと言われる野路菊は秋に白や淡黄色の花が開花を迎
えます。野菊は見る人に愛でて讃えてもらおうなどとは念頭に置かず、自ら
の命を精一杯生きる、それが野菊なのです。


仙人は菊の花を食べて長寿を保つ

世界で最初に菊の栽培を初めたのは中国です。周の時代、2000年以上前
のことです。仙人は菊の花を食べて長寿を保つと信じられ、長寿の薬として
菊の栽培が始まりました。出来るだけ大輪に、また花の数を多くとの人の手
が加えられて人工栽培による園芸種が誕生しました。この園芸種が日本に伝
わって平安時代に貴族が菊の花を浮かべた酒を飲み長寿を願ったのでした。


 菊が本当に仙人の食べものだったかはともかく、菊の性状を見るとそう信
じた理由は納得できます。第一は生命力の強さ。ほとんどの花が初冬に霜枯
れしますが、菊だけは凛乎として霜をしのいで咲き続けます。そして花が散
った直後に根から新芽が現れ、その萌えた芽は長い冬を積雪の下で耐え抜き
、春3月に一気に緑の葉を展開させるのです。


 私たちは太陽の絵を書けと言われた時に、黄金色の正円の外周に光線を配
します。キクの姿形はまさしくその絵の太陽そのもの。細い花弁が外周の光
線と同じです。キクは地上における日精・太陽の精ともいえ、古代の中国で
なくとも、キクは我が生きる姿でいてほしいと願うのは当然でしょう。誰し
もが長寿の夢を託したくなります。


 そのキクの本然の姿が野生種です。いかに花が華美でも、人工は自然には
及びません。野菊は厳しい環境にも強い生命力で生き抜きます。可憐な姿で
ありながら、風雨をしのいだ苦労の影を見せない健気さに、私たちは人生と
重ねて感銘を感じるのでしょう。

11月の花の紹介  サザンカ

サザンカ

 「困難に打ち克つ」。見た目そっくりなツバキとは表と裏の関係

日本特産の常緑樹で本州西端、九州、四国に自生します。


椿に似ていますが椿はにぎやかな春の花であるのに対してサザンカは晩秋の花です。同じツバキ科でありながら表と裏のような関係です。


サザンカは一つづつ枝の先に花が咲き、紅を帯びた白い花の五弁花です。花


心に多数の雄しべがあって、元の方だけが少しだけくっついているだけなの


で、散る時はバラバラに散ります。雄しべや花びらの下部が癒着して筒状態


になっているのが特徴です。品種によってよく似ているので、ツバキとサザ


ンカは間違えられることも多いのですが、ツバキは花が丸ごと落ちますが、


サザンカは花びらが個々に散ります。また、見た目では子房にサザンカは毛


がありますが、ツバキにはありません


名前の由来はツバキの漢名の「山茶」花から「さんさか」と変化して付けら


れたと言われています。学名はカメリカサザカ。1800年代に日本に長く滞在


して植物学に貢献したツンベルグが世界に紹介しました。


我が国で生まれ育った花木だけに多くの詩歌に詠まれています。絵の題材に


もなっています。文献に初めて登場したのは元禄7年(1694年)、貝原益軒の


「花譜(かふ)」で、それ以前はツバキしか記されていないとされています


。元禄年間には50品種も種類があり、江戸時代になってから栽培が盛んにな


ってと記されています。明治時代にはさらに親しまれ、170種類にまで増えま


した。


ヨーロッパには日本から1869年に渡り、1900年代になるとアメリカでも取り


寄せられ、実生が盛んになりました。


長い歴史を持つサザンカ。晩秋から初冬にかけて目を楽しませてくれます。


「さざんか、さざんか、咲いた道…」という童謡「たきび」のフレーズでも


知られる山茶花は、冬の花の代名詞。サザンカの花言葉は「困難に打ち克つ


」です。